こんにちは、仙台薬師堂いしばし消化器 内視鏡クリニック院長の石橋です。連日のようにコロナ感染のニュースが流れており、日々気の抜けない状況が続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか?前回は大腸の機能性胃腸症として代表的な病態である過敏性腸症候群についてお話ししましたが、今回は胃の機能性胃腸症として代表的な機能性ディスペプシアに説明したいと思います。当クリニックにも、この機能性ディスペプシアが原因と考えられる症状で来院されている患者様が、比較的多くいらっしゃることを日々の診療で実感しています。
1)機能性ディスペプシアとは?
機能性ディスペプシア(functional dyspepsia:FD)とは、胃部痛や胃もたれなどの症状が慢性的に続いているにもかかわらず、採血検査や胃カメラ検査を行ってもその原因を特定できない病態を言います。機能性ディスペプシアでは、食事をした後の胃もたれ感や早期満腹感,心窩部の焼けるような痛みが症状として現れ、慢性的に続きます。
2)原因
機能性ディスペプシアを起こす要因には、胃の運動機能の障害、内臓の知覚過敏、心理社会的なストレスなどが考えられています。
①胃の運動機能の障害
食事をすると、胃はその食べ物を貯めるために緊張を緩めて膨らみ、これを適応性弛緩と言いますが、胃の蠕動で適量ごとに十二指腸へ食べ物を送ります。機能性ディスペプシアの患者様ではこの適応性弛緩が不十分であるために、胃に十分な食べ物が貯められなかったり、適切な胃の蠕動が出来ないことにより、胃もたれなどの症状が生じます。
②内臓の知覚過敏
また胃の知覚過敏が起こり、胃がパンパンになったり、刺激の強いものが胃に入ってくることで、症状を起こしやすい状態になっています。
③心理社会的なストレス
また、睡眠不足や過労などの身体への負担や、悩みやストレスなど精神面での負担があることも機能性ディスペプシアの原因になります。不安やうつなどの気分の不調も症状に影響を及ぼすものと考えられています。
3)症状
機能性ディスペプシアはその症状から、次の2つに分類されています。しかし実際には、以下の2つの症候群が入り混じった症状が現れ、明確に線引きできないケースも多くあります。当クリニックでも、機能性ディスペプシアと考えられるケースでは、患者様の訴えられる症状は様々であり、問診のみで判断が難しいこともあります。
①食後愁訴症候群
食事をした後の胃もたれ感や、早期満腹感(食事の途中でお腹がいっぱいと感じ、十分な量を食べられないこと)などの症状を特徴とするものです。
②心窩部痛症候群
心窩部(みぞおち付近のこと)の痛みや焼ける感じなどの症状がみられるものです。これらの症状は、食事摂取の有無にかかわらず現れます。
4)検査・診断
①問診
機能性ディスペプシアが疑われる患者様には、まず自覚症状を詳しく聞いていきます。どのような症状が、どのような頻度で、どの位の期間続いているのか、症状はどのような時によく起きるかなどを丁寧に質問していきます。またその原因にストレスや心理社会的な要因が関わっていることもあるため、過労や睡眠不足、精神的なストレスがないかも聞いていきます。
②検査
胃がんや胃潰瘍などの症状を起こしうる病気(器質的疾患)がないかどうかを調べる重要な検査が胃カメラ検査です。通常、機能性ディスペプシアの患者様では胃カメラ検査で異常を認めないことが多く経験されますが、器質的な疾患が隠れている可能性も否定できないことから、しばらく検査を受けていない場合には一度胃カメラ検査を受けて頂くことをお勧めしています。そのほか必要に応じて、血液検査や腹部超音波検査(腹部エコー検査)、CT検査などを行います。腹部エコー検査についても症状のある方には積極的に行っておりますので、腹部症状などが続いている方は、いつでもお気軽にご相談ください。
5)治療
機能性ディスペプシアの治療は主に薬物治療や生活指導になります。
①薬物治療
症状に合わせて薬剤を選択して治療を行っていきます。心窩部痛や心窩部の灼熱感などが主な症状の場合(心窩部痛症候群)は、胃酸の分泌を抑える酸分泌抑制薬を第一選択として使用しています。また食後の胃もたれ感や早期満腹感が主な症状の場合(食後愁訴症候群では、胃の動きを促進させる薬を用いて治療を行っています。しかし、実際には心窩部痛症候群や食後愁訴症候群が入り混じった症状が現れ、その両者を明確に分けて治療することが難しいことも多いため、個々の患者様の症状に合わせて適宜治療薬を選択し、何種類かの薬を併用して使用することもあります。また、胃もたれ感などの上腹部のさまざまな症状に対して、六君子湯という漢方薬の効果が期待できると報告されており、当クリニックでも必要に応じて六君子湯の処方も行っております。悩みやストレスなどの心理的な負担や、不安やうつなどの気分的な不調が原因と考えられる場合には、抗不安薬や抗うつ薬を用いることもあります。また、胃カメラなどの検査を行うことで症状の原因がわかることにより不安が解消され、症状が改善されることも期待できます。
②生活指導
機能性ディスペプシアの症状は、食生活をはじめとした生活習慣とも密接な関係があります。脂肪の多い食事はカロリーが高く胃の動きを抑制してしまう作用があるため、胃もたれなどの症状を起こしやすくなります。さらに胃と食道の境目にあり胃酸の逆流を防いでいる筋肉(下部食道括約筋)を緩めてしまう作用もあるため、揚げ物、炒め物、生クリーム、クッキーなど脂肪の多い食事を避けるよう心がけましょう。また、アルコールや香辛料、炭酸飲料、コーヒーなどは胃酸の分泌を刺激し、症状を悪化させることもあるため控えるようにしましょう。食事をよく噛んでゆっくり食べることも、過食を防ぎ症状を和らげるために有効とされています。一回に食べる量を抑え回数を増やすことで症状を改善させることができる場合もあります。昔から「腹八分」と言われていますが、このような症状に対する生活の知恵かもしれません。
今回は機能性ディスペプシアについてお話しさせていただきました。もう3週間ほどで年末年始になります。今年はコロナ禍もあり不要不急の外出自粛で家にいることも多いと思いますが、食べ過ぎ飲みすぎに注意して年末年始をお過ごしください。